LOGIN第282話 うちの嫁は優しすぎる電話を切って航空券を手配しに行ったものの、蓮はまだ内心落ち着かなかった。美月がやっぱり行かないと言い出すのではないかと、不安だったのだ。だからこそ、先に電話を切った。そして今、美月の口から「わかった」という言葉を聞いた蓮は、嬉しくてたまらなかった。興奮のあまり、顔じゅうがぱっと輝いた。もともと端正な顔立ちが、今はさらに輝きを増し、思わず目を奪われるほどだった。美月は、そんな彼の顔に思わず見入ってしまった。そして、自分の心臓がまた妙に速く鼓動していることに気づいた。慌てて視線をそらし、話題を変えた。「そっちに何か持ってきてほしいものはある?」「何もいらない。お前が来てくれるだけで十分だよ」蓮の心は、甘い幸福感でいっぱいだった。――本当に俺のことを気にかけてくれている。わざわざ遠くまで来てくれるうえ、何か持っていくものまで聞いてくれるなんて。これが愛じゃなきゃ、何なんだ。間違いなく、俺を愛している。当たり前だ。俺にはこれだけの魅力がある。毎日顔を合わせているんだから、俺を好きにならないはずがない。美月は彼の甘ったるい声を聞き、腕に鳥肌が立つのを感じた。――まったく、この人は相変わらずお調子者なんだから。「そういえば、午後は母さんとエステに行ってたのか?」美月はうなずいた。
第281話 甘え上手な男は得をする蓮は人の心の機微を読むのがうまい。美月の言葉に滲む柔らかな含みを、聞き逃すはずもなかった。――これは脈ありだ。「……なあ、俺のこと、かわいそうだと思ってくれよ。なあ、早く来てよ。このままお前に会えなかったら……俺、死んじまう。本当に死んじまうからな……なあ、いいだろ?」――会えなさすぎて、死にそうだ。美月は呆れて言葉も出なかった。――この男は、どうして一日中こんなでたらめばかり口にしているのだろう。甘えたような表情を浮かべる彼から目をそらし、美月はなんとか「行かない」とだけ告げた。「なあ、頼むよ。さっきから言ってるだろ、俺のことかわいそうだと思ってくれよ! 本当にお前に会いたいんだ」美月は、このまま電話を切ってしまおうかと思った。しかし、蓮はその隙を与えなかった。「本気で言ってるんだ。会社には今、ちゃんと任せられる人がいるし、ゲームもまだテスト中で、そっちの技術者が対応してくれてる。会社に顔を出さなくたって、何の問題もないんだ」「それに、パソコンさえ持ってくれば、どこでも仕事はできるだろ? 仕事にも何の支障もない。なあ、来てくれよ! こっちの用事が片づいたら、二人で何日か遊びに行くことだってできるんだぞ」話せば話すほど、蓮の目は輝いていった。できることなら、今すぐ帰国して美月を抱えてでも連れてきたいくらいだった。美月は複雑な表情で彼を見つめた。「そんなに
第280話 すごく大事な用があるんだ雅は笑顔で同意した。「そうよ、本当に綺麗だわ。ねえ、今度はお母さんも一緒に行かない?」清子はたしなめるように雅を一瞥した。「冗談ばかり言って。もう片足を棺桶に突っ込んでいる私が、今さら何のエステよ?」雅はすかさず言い返した。「お母さん、そんなこと言っちゃだめよ。何が片足を棺桶よ。私たちは百二十歳まで生きるんだから! それに、年を取っても素敵でおしゃれなおばあちゃんでいなくちゃ」美月も雅の言葉にうなずいた。「お母さんの言うとおりです!」二人に口々に言われ、清子はすっかり機嫌をよくし、にこにこと笑った。もともと神崎家の食卓は豪華だったが、美月が来てからは、さらに充実していた。厨房の料理長もいっそう腕によりをかけ、どの料理も見た目から味まで、持てる技術の限りを尽くしていた。しかも、品数も実に豊富だった。美月は毎食、朝食までつい食べ過ぎてしまうほどだった。――幸い、自分は太りにくい体質だ。そうでなければ、とてもこんなに好き放題食べられないだろう。とはいえ、さすがに夜は運動しておかないと。別棟には、蓮がジムを設けていた。夕食後、美月は清子に付き合って庭を一時間ほど散歩し、そのあとジムへ向かい、ひと汗流した。スマホを持っていかなかったため、部屋に戻って確認すると、着信履歴には蓮からの不在着信がずらりと並んでいた。
第279話 本当に頼りにならない雨子は、雅の言葉にひどく腹を立てた。――反省? 何を反省しろっていうのよ。頭がおかしいのではないか。だが、ここには大勢の奥様たちがいる。さすがに、こんな場所で騒ぎを起こすわけにはいかなかった。そうでなければ、本気で雅に怒鳴りつけてやりたいところだった。ちょうどそのとき、柳沢家の奥様がこちらへ歩いてきた。雅の姿を見ると、親しげに声をかけた。先ほどのやり取りを聞かれていたかもしれない。だが、もうそんなことはどうでもよかった。雨子は志織に一言告げると、足早にその場を立ち去った。志織も機嫌が悪かった。彼女もこれ以上、ここに長居する気はなかった。娘の手を引き、慌てて店を後にした。車に乗り込んでから、志織はふと思い出したように尋ねた。「雨子、怒っていたかしら? 明日の約束、取り消されたりしないわよね?」「そんなことにはならないわ」茜はきっぱりと言い切った。「それに、仮に約束を取り消されたとしても、別にいいじゃない。お父さんもお兄さんもいるんだから、私にだっていい相手が見つかるでしょ?」――母さんは本当に頼りにならない。この家で本当に頼りになるのは、やはり父さんと兄さんだ。それに、私だってそんなに悪くない。まだ婚約が決まったわけでもないんだし。
第278話 反省すべきは、そっちでしょう「つまり、雅もここにいるということ?」雨子はその話を聞き、少し意外に思った。――こんなところで鉢合わせするとは、本当に偶然だ。志織は思わず口元をへの字に曲げた。「そうよ。ちょうどあの美月を連れてきているわ」雅が美月をあれほどちやほやしている——その姿を思い出すだけで、志織は吐き気がした。――まったく、みっともない。姑が嫁をそこまで持ち上げるなんて、上流の奥様たちの間では聞いたこともない。相手がそれなりの家柄ならまだしも、美月のような連れ子ごときに、姑の体面も捨ててちやほやするなんて。笑い話にもならない。浅ましいにもほどがある。雨子の表情も、たちまち険しくなった。内心、不機嫌だったのだ。――雅は何を考えているのだろう。あの小娘まで、わざわざここに連れてくるなんて。まさか、あの小娘がこんな高級エステを利用できると思っているのか。ふん! 名家に嫁いだくらいで、身分まで上がったつもりかしら。猫に小判もいいところだわ。胸の奥に湧き上がった不快感が、雨子の上機嫌をあっさり吹き飛ばした。――雅はきっと、姑の寛大さをこれみよがしに見せて、良い姑を演じているのね。私を悪い姑に仕立て上げるつもりかしら。「あとで、ちょっと挨拶に行きましょうか?」――そうい
第277話 まるで長年の親友のように志織が料金を振り込むと、プラチナ会員カードはブラック会員カードに切り替えられた。それまでプラチナ会員カードに残っていた金額も、すべて新しいブラック会員カードに移された。店員は恭しくカードを志織に差し出した。「どうぞお受け取りくださいませ!」志織はカードを受け取った。さすがに高額な会員カードだけあって、手にした感触まで違うように思えた。それでも、胸中は複雑だった。たった一枚のカードに、一千万円もの大金をつぎ込んだのだ。志織は大きく息を吸い込んだ。――せっかくこれだけのお金を使ったのだから、それに見合った待遇を受けなければ損だ。彼女は顎を上げ、いかにも高貴な奥様らしい態度で告げた。「それじゃあ、さっきのコースを私にも手配してちょうだい」店員は志織の尊大な態度など気にも留めず、笑顔で応じた。「かしこまりました。お嬢様も同じコースでよろしいでしょうか?」「いいえ、娘には結構よ。生まれつき美人だし、まだ若いから、あんな本格的なケアは必要ないわ。基本コースで十分よ」母の言葉を聞き、茜は少し面白くなかった。――なぜ自分だけ基本コースなの?だが、母の表情を見れば、その理由は明らかだった。一千万円もの出費を惜しんでいるのだ。――たかが一千万円で、そこまで渋る必要があるのだろうか。